2021年10月28日、ホワイトハウスと議会の民主党指導部は、Build Back Better Act (BBBA)に関する枠組み合意(フレームワーク)を発表しました。このフレームワークは、BBBAの変化、交渉中に核となる条項が修正され続けている部分を反映しています。また、下院ではこのフレームワークにほぼ対応する最新の法案が発表されました。BBBAが法制化されるためには多くのステップが必要ですが、今回のフレームワークは大きな前進を意味します。ここでは、これらの進展が何を意味するのか、また、今後何が起こるのかについて、私たちの所見をごお話します。
何が起こったのか?
9月15日、下院のWays and Means委員会は、BBBAの暫定的な税務条項を承認しました。その後、民主党議員とホワイトハウスとの間で交渉が続けられ、法案の進捗が遅れていましたが、10月28日、新たな突破口となるフレームワークが発表されました。その数時間後、下院規則委員会は、そのフレームワーク沿ったと思われる最新の法案を発表しました。しかし、その法案は上下両院の主要メンバーがまだ公に合意しておらず、その更新された法案はまだ下院での投票の準備ができていません。
前回の下院Ways and Means委員会のBBBA草案については、主要な税制案を説明したアラート、トップサプライズ、大きな影響を与える案、予想される案を取り上げたフォローアップアラート、遺産、贈与、信託の各案について説明したアラートで取り上げました。
BBBAのフレームワークと最新の法案について、何が分かっているのか?
BBBAのフレームワークには、社会、環境、経済に関する幅広い投資プログラムが含まれています。また、このフレームワークは、以前に発表されたBBBAのバージョンに含まれていた主要な税務条項を大幅に変更しています。フレームワークと修正された法案について最も影響の大きい部分は以下の通りです。
- 個人、遺産、信託への課徴金 - BBBAのWays and Means委員案で最初に発表された課徴金をフレームワークは支持しています。しかし、修正された法案では、この課徴金を2つの段階に分けています。すなわち、個人納税者には、1,000万ドルを超える修正調整後総所得(MAGI)に対して5%、2,500万ドルを超えるMAGIに対して3%の追加課徴金が課せられます。これらの基準額は、結婚している納税者が個別申告する場合には50%減額されます(例:500万ドルと1,250万ドル)。遺産や信託の場合は、MAGIが20万ドルと50万ドルというはるかに低い基準値が適用されます。課徴金はMAGIに対して課されるため、すべての所得に適用され、該当する納税者のキャピタルゲイン、配当金、所得に適用される実効税率が上昇します。
- 純投資所得税(NIIT)の拡大 - このフレームワークでは、バイデン政権と議会の民主党指導部が一貫して進めてきた3.8%のNIITの拡大も採用しています。これは、MAGIが40万ドルを超える納税者に適用され、現在NIITの対象外となっているすべての事業所得に対して、自営業税が課されていない範囲で課税されます。
- 大企業に対する代替ミニマム税 - 大企業の財務諸表上の利益に対して、新たに15%のミニマム税が課せられます。最新の法案によると、3年間の平均年間財務諸表利益が10億ドルを超える法人に適用されます。また、グローバルで財務報告を行っているグループの子会社である米国の企業は、1億ドルを超える所得がなければ、この税の対象とはなりません。この数ヶ月間、いくつかのタイプの法人税増税が議論されてきましたが、今回のフレームワークでは、一般的な法人税の税率を上げる代わりに、大企業に対するこの最低税率を利用しています。
- 上場企業の自社株買いに対する課徴金 - 今回の枠組みでは、上場企業が行う自社株買いに対して1%の課徴金を課すことも発表されました。この1%の税金は、その年に企業が買い戻した株式の公正な市場価値に対して課され、この税金の支払いは企業の控除対象外となります。新法文では、課税対象外の企業再編、雇用者がスポンサーとなっている退職金制度からの買戻し、年間の買戻し総額が100万ドルを超えない買戻し、配当金として分類される買戻しなど、いくつかの例外規定が設けられています。
- 超過事業損失制限の延長 – フレームワークと法案では、超過事業損失制限を恒久化することになっています。この制限はTax Cuts and Jobs Act (TCJA)の一部として初めて制定されたものです。これは個人納税者が年間25万ドル(夫婦合算納税者の場合は50万ドル)を超える事業損失を事業外所得と相殺することを妨げるものです。また、この法案では、超過損失の繰越についても変更されます。現行法では、超過損失は次の課税年度に純営業損失に変換され、その年度の非事業所得と相殺することができます。しかし、今回の法案では、繰越欠損金は次年度以降も超過事業損失の制限の対象となります。この制限は現在、2026年12月31日に期限切れとなるため、枠組みの延長は2027年に発効することになります。
- 支払利息制限の修正 - 本フレームワークでは、事業者の支払利息に課される損金算入制限の取り扱いについては言及されていません。しかし、更新された法案には2つの重要な修正が含まれています。1つは、パートナーシップやSコーポレーションレベルでは、163(j)条に基づく制限を適用しないというものです。その代わり、この制限は、法人、個人、遺産、信託などのパススルーの最終的な所有者に適用されることになります。Ways and Means委員案からの主な変更点は、繰越利息は5年間の使用期間を設けず、無期限に繰越すことができることです。また、BBBAでは、グローバルで財務報告を行っているグループのメンバーである米国企業の支払利息の損金算入に新たな制限が加えられ、米国企業のネット支払利息額が全世界ネット支払利息額の米国企業シェアの110%を超える場合には、米国企業の支払利息の損金算入が制限されます。米国企業のシェアは、全世界のEBITDAと比較し計算されます。
- 174条の延期-今回の法案では、174条に基づく研究費の損金算入に関する2017年の変更点の発効日を延期することが盛り込まれています。この延期により、研究費の発生年度の損金算入は継続され、2026年からは資産化・減価償却となります。
- 支配下グループ(Controlled Group)の定義の拡大 - BBBAは、企業がどのような場合に共通の支配下にあるとみなされるかを説明する52条(b)の規則を修正します。この修正は以前、Ways and Means委員案のBBBAに含まれていましたが、更新された法案には同じ条項が変更なく含まれています。この条項は枠組み合意では言及されておらず、世間の注目を集めていませんでした。しかし、支配下グループに含まれる納税者には、一貫して適用されることが求められる所得税法の条項が数多くあるため、この条項は大きな影響を与える可能性があります。
- 1202条の段階的廃止 - 今回のフレームワークでは、適格中小企業株式(QSBS)の取り扱いについての変更は発表されませんでした。しかし、更新された法案では、MAGIが40万ドルを超える個人は50%の控除しか受けられないという、BBBAのWays and Means委員案にあったフェーズアウトが引き続き盛り込まれています。
- ウォッシュセール - フレームワークでは、ウォッシュセールについては言及されていませんでしたが、法案では前バージョンと同様の表現が維持されており、ウォッシュセールのルールにいくつかの重要な変更が加えられています。1つ目の変更点は、ウォッシュセールのルールを拡大し、外貨、コモディティ、デジタルアセット(暗号通貨など)を含むようにすることです。また、納税者が実質的に同一の資産を取得したかどうかを判断する際に、関連当事者を含めるように拡大されます。
- 児童税額控除(CTC)の延長 - フレームワークの特徴的なプログラムとして、児童税額控除の延長があります。これは元々、American Rescue Plan Actの一部として2021年に拡大されたものです。フレームワークと法案では、改善されたCTCを2022年まで延長し、控除の全額還付を恒久化することになります。
- エネルギークレジット – フレームワークと立法分は、風力、太陽光、地熱、その他の再生可能エネルギー関連の活動を含む、再生可能エネルギーやその他の関連クレジットを延長、修正すします。また、住宅用不動産のエネルギー効率向上に関するクレジットや、商業用不動産のエネルギー効率向上に関するクレジットも含まれます。プラグイン式電気自動車に対するクレジットは、延長、修正され、増額されますが、組合員のいる米国施設で最終組み立てを行う車両については、より大幅に増額されます。
- グローバルミニマム税 - 米国企業の海外での利益に対して、国ごとに15%のグローバルミニマム税を他国と協調して適用します。この項目は、後述の法案におけるGILTIの変更でカバーされる可能性があるほか、まだ追加変更が今後交渉される可能性もあります。
- 税源侵食濫用防止税(BEAT)の強化 - フレームワークでは、OECDのグローバルミニマムタックスプランに準拠していない国に所在する外国法人に適用される、未定義のペナルティ税率を規定しています。法案では、BEATの税率を2022年に10%に変更し、2025年には18%に段階的に引き上げます。修正課税所得は、税源侵食損金算入額(Base Erosion Benefits)を考慮せず、外国関連者への特定の支払い(Base Erosion Payments)による棚卸資産の簿価を調整せず、税源侵食損金算入額である控除を考慮せずに欠損金を決定し、代替ミニマム税に適用される規則に類似した規則に基づくその他の調整に従って計算されます。
- Global Intangible Low-Taxed Income (GILTI)、Foreign-Derived Intangible Income (FDII)、およびその他の国際税務分野の変更 - フレームワークでは、グローバルミニマム税とBEAT以外の国際税務分野の変更に関する詳細はほとんど示されていません。しかし、更新されたBBBAには、以前の法案から様々な国際税務についての変更点が引き続き含まれています。その中には、250条控除の変更、FDII(24.8%に変更)とGILTI(28.5%に変更)、が含まれています。これらの控除額の変更により、GILTIに対する実効税率は15%、FDIIに対する実効税率は15.8%となります。GILTIは国別に計算され、QBAI所得控除額は10%から5%に引き下げられ、Tested Lossは繰り越されます。同様に、外国税額控除も国別に計算されますが、GILTI所得に関連する外国税額控除のヘアカットは20%から5%に引き下げられ、GILTI所得に関連する余剰の外国税額控除は5年間繰り越すことができます。外国税額控除の繰り戻しは認められなくなります。GILTIバスケットの外国源泉所得を測定する際には、250条の控除と250条の控除に起因する税金以外の控除はバスケットに割り当てられません。IC-DISCや外国販売会社(Foreign Sales Corporation)に関連する所得や利益は、外国人が受け取った場合、米国実質関連所得とみなされます。
- 内国歳入庁(IRS)のエンフォースメント活動への資金提供の強化 - 今回のフレームワークでは、内国歳入庁(IRS)のエンフォースメント活動を強化するための新たな資金提供も発表されました。米国議会は、税収が見込まれるにもかかわらず未回収となっている「タックスギャップ」を削減する方法にますます注力しています。IRSへの資金提供を増やすことで、今後数年間で追加の税収が実現することが期待されています。
外国関連者への特定の支払いは、263A条に基づき棚卸資産として資産計上される必要のある国外関連者への支払額や、国外関連者への棚卸資産の取得原価を超える支払額を含むように修正される予定です。外国関連者の間接費用に起因するBase Erosion Paymentsを、関連者への支払い額の20%とみなすセーフハーバーが利用できるようになります。この規定では、米国で課税対象となる支払いや、外国の関係者への支払いについては、納税者が当該支払がBEAT税率以上の実効税率で外国で課税されることを証明する場合には、例外となります。また、税源浸食率(Base Erosion %)が低い納税者に対するBEATの例外措置は、2024年1月1日以前に開始する課税年度に限定されます。さらに、納税者がBEATの対象となる要件を下回った場合でも、BEATの対象となった後の10年間はBEATの対象となることを規定しています。
何が除外される可能性があり、何が不明瞭なのか?
2021年を通して、バイデン政権と議会の民主党指導部によって、多くの税制上の提案が議論されてきました。BBBAのフレームワークと更新されたテキストには、それらの税制案の限られたサブセットが含まれています。現在除外されている税案のほとんどが最終法案に含まれる可能性は低いと思われます。しかし、これらの提案が完全に除外されるかどうかは、議会の審議が終了するまで決定されません。現在のところ、フレームワークから除外されている最も重要な税務条項は以下の通りです。
- 個人所得税の変更 - 過去の提案では、個人の最高税率を37.0%から39.6%に引き上げることと、長期キャピタルゲインと適格配当金の最高税率を約25%に引き上げることを一貫して重視していました。これらの変更は、今回のフレームワークと法案では除外されています。しかしながら、上述の個人所得税の課徴金は、適用される基準値を超える納税者に対して、通常所得とキャピタルゲインの両方に対する税率を引き上げる効果があります。また、個人所得税の最高税率は、TCJAの多くの税制条項が終了する2026年に39.6%に上昇する予定です。
- 適格事業所得控除(QBID) - 20%のQBIDは、以前の提案では、高所得者に対する控除のメリットを縮小または廃止することが目標とされていました。しかし、今回のフレームワークとアップデートされたBBBAでは、QBIDの修正は行われませんでした。QBIDは現在、2025年末に期限切れを迎えることになっており、修正を行わないということは、期限切れまでに現行のルールが適用され続けることを意味すると思われます。
- 州税・地方税の控除制限(SALTキャップ) - 9月15日版のBBBAと同様、今回のフレームワークでは、TCJAで課された個人による州税・地方税の控除制限(年間1万ドル)の変更は盛り込まれていません。最近の提案では、SALTキャップの適用を2年間廃止し、その後、制限を再適用する可能性が注目されています。納税者の間でSALT上限が不評であることや、税金の高い州の議員からの圧力が大きいことから、民主党の指導者たちは交渉を続ける中でSALT上限の取り扱いを再検討する可能性があります。
- 退職金制度の変更 - Ways and Means委員案のBBBAには、高所得者のRoth IRAへの移行を禁止したり、IRAへの拠出や必要最低分配額のルールを変更するなど、退職金制度に影響を与えるいくつかの変更が含まれていました。これらの提案のほとんどは、BBBAのフレームワークと更新されたテキストから除外されています。
- 法人税の変更 - 個人所得税の税率変更が除外されているのと同様に、フレームワークとアップデートされたBBBAテキストでは、法人所得税の税率変更は除外されています。その代わりに、大企業に対する代替ミニマム税が導入されています。
- S法人の再編 - Ways and Means委員の草案には、特定の古いS法人が非課税でパートナーシップ形態に組織再編できるという予想外の条項が含まれていました。この提案は、フレームワークと更新された法案の両方から除外されました。
- パートナーシップ税の変更 - 上院財務委員会の議長であるワイデン上院議員は、以前、パートナーシップ税の規則を拡大的に変更することを提案しました。現在の法案には含まれていませんが、BBBAが上院で審議される際には再検討される可能性があります。
- キャリード・インタレストの修正 - BBBAのフレームワークとアップデート版では、キャリード・インタレストに適用されるルールが除外されています。以前のWays and Means委員案では、1061条に基づく既存のルールが強化され、キャリード・インタレストの保有者が長期キャピタルゲインの扱いを受けることが非常に困難になっていました。しかし、現在のところ、このような変更は除外されています。
- 相続税と贈与税の変更 - Ways and Means委員案のBBBAには、相続税と贈与税、および信託の税務処理に関する多くの重要な変更が含まれています。具体的には、総控除額を一人当たり11,700,000ドルから約6,000,000ドルに戻すこと、委託者信託を委託者の遺産に含めること、委託者信託と委託者の間の売買を課税対象取引として扱うこと、非事業用資産を保有する法人の譲渡に対する遺産税・贈与税の評価額の割引を廃止することなどが含まれています。これらの変更はすべて、BBBAのフレームワークとアップデート版から除外されています。
今後の展開
BBBAの交渉が進む中、超党派のインフラ投資・雇用法(Infrastructure Act)は、上院が8月10日に法案を可決して以来、下院での最終投票を待っています。民主党の指導部は、インフラ法案の最終投票を推し進めていますが、これまでのところ、BBBAでの合意が得られない中で投票を進めるために十分な数の議員を説得することができませんでした。今回のフレームワークの発表と法案の更新は、インフラ法とBBBAの両方の制定に向けた重要な進展です。しかし、民主党の指導者たちは、大枠の合意から最終的な法案の作成に向けて、複雑な交渉を続けています。
これらの法案が最終的に成立するかどうかは、今後2週間が勝負となるでしょう。なお、米国議会は先日、債務上限、政府資金、Surface Transportation Fundingの延長を決定しましたが、これらの延長期限はいずれも12月初旬に期限切れとなります。そのため、民主党議員の間で残っているBBBAに関する論争を引き続き解決することに全力を注いでいます。
BBBAが議会を通過する際の最新情報については、引き続き「税率と政策変更に関する見通し」をご覧ください。