トランプ政権は、カナダおよびメキシコとの新しい3カ国間通商協定を今週発表した。 この協定は、米国・メキシコ・カナダ協定と呼ばれ、3カ国が批准をすれば、北米自由貿易協定(NAFTA)に取って代わることになる。
NAFTAと同じく、USMCAは製造業、農業、酪農業、金融業、通信業を含む多くの産業を網羅する広範かつ包括的な協定である。物理的な商品の取引に加えて、知的財産、労働市場、反競争的な商慣習や環境にまで言及がある。この記事では、USMCAの自動車業界への影響に焦点を当てている。
自動車部品サプライヤーにとっての3要点
USMCAには自動車業界に関わる重要な条項が3つある。それらは、付属書類4-Bの付属書「自動車部品のための特定製品原産地規則に関する条項」に定められている。(全文は、協定第4章、原産地規則の202~234頁。)
付属書類4-Bでは、域内原産品、鋼鉄およびアルミニウムに関する条件、労働賃金といった重要な分野を規定している。その上、乗用車、ライトトラック、大型トラックおよび自動車部品に対してそれぞれ異なる扱いを明記している。
弊社が自動車部品サプライヤーにとって重要だと判断したのは以下の3点である。
1. OEMおよびサプライヤーは、移行期間内に調達戦略を検討
域内原産地比率の引き上げに伴って企業が検討すべき行動
- 低価格部品を含むより詳細な構成部品追跡
- 加速エンジン、トランスミッション、高性能バッテリー用の工場への投資(賃金条項の計算において有利となる)
- ティア2、ティア3サプライヤーの域内化
- 域内での研究開発およびIT投資の増大
主な分野のそれぞれの移行期間は次のとおり。
- 域内原産地比率(現在は62.5%)
- 2020年1月1日:66%
- 2021年1月1日:69%
- 2022年1月1日:72%
- 2023年1月1日:75%
- 賃金条項:時給16ドル以上(現行規定なし)
- 2020年1月1日:30%(部品や製造分野で少なくとも15%、技術分野は最大10%、組立分野は最大5%)ライトトラックおよび大型トラックについては、移行期間はなく内訳も含めて30%にて据え置き
- 2021年1月1日:33%(部品や製造分野で少なくとも18%、技術分野は最大10%、組立分野は最大5%)
- 2022年1月1日:36%(部品や製造分野で少なくとも21%、技術分野は最大10%、組立分野は最大5%)
- 2023年1月1日:40%(部品や製造分野で少なくとも25%、技術分野は最大10%、組立分野は最大5%)
- 鉄鋼およびアルミニウム(現行規定なし)
- 2020年1月1日:購入の経路を問わず、輸出用車両のものも含めて、自動車メーカーの前年度中の平均購入の70%が北米産。
2. コア部品、主要部品、補足部品
付属書類4-Bでは、達成すべき域内原産地比率やその移行期間が、コードとともに部品を明記した3つの表で定められている。
コア部品:このカテゴリーにあたるのは、エンジン、リチウムイオンバッテリー、車体、ギアボックス、車軸、ステアリングシステムおよびサスペンションなどの部品である。2020年1月1日以降、66%の域内原産地比率が求められ、2023年までに75%に引き上げられる。これらの部品は、高付加価値で、資本集約度が高く、乗数効果があるため、域内産とすることで経済効果が見込まれる。
補足部品:このカテゴリーには幅広い品目が該当する。触媒コンバーター、照明、電動機、ワイヤーで、達成すべき域内原産地比率はやや低く、2020年の62%から2023年には65%になる。原材料の多くは域外から調達される場合でも、域内での最終的な組み立てを意図している。電気自動車が増加するにつれて、生産を現地化しUSMCAの条件を満たすべく、電動機などの部品に対する需要は増大する。
主要部品:コア部品と補足部品の中間にあたるのが主要部品で、達成すべき域内原産地比率は2020年の62.5%から2023年の70%。列挙された部品は、タイヤから空気ポンプ、円錐軸受からフライホイール、クラッチまで幅広い。OEMの観点からは域内に十分な生産能力を有しているが、USMCAの規定によって、タイヤのスチールコードやベアリングやクラッチに用いられる特注スチールなどの調達の現地化が促される。
3. 将来の自動車関税の潜在性について注意が必要
弊社は、1962年の貿易拡張法の232条下での将来の自動車関税の潜在性について注意が必要であると考えている。5月23日に発表された車および車部品の輸入がその国家安全保障を損なうことを脅すかどうか定めるために、米国が232条に関する調査を始めていることについて触れた。 今回提案されたUSMCAでは、外国車および車部品の輸入が国家安全保障への脅威であると米国が結論づけた場合でも、その場合発動される関税からカナダおよびメキシコが排除されるとする文言を含んでいる。
この通商協定には、4つの補足文書があり、メキシコおよびカナダを232条下の自動車関税より除外する規定が含まれている。また、車および車部品に対する詳細規程が域内原産地比率をいかに運用されるかを協議するため、60日間の交渉期間が確立された。 3カ国が補足文書による運用に合意したことは、232条下の自動車関税に関する問題が将来的に潜在していることを明示している。 このことは、米国、日本、韓国およびEU間の貿易協定の交渉戦略に影響を及ぼすことになる。
また、USMCAは、現行の鋼鉄(25%)そしてアルミニウム(10%)に対する232条の関税率に変更がないことを注記する。
次は?
USMCAに書かれているタイムラインの大半が2020年1月1日から開始されるということは、米国、カナダおよびメキシコは、2019年まで現行のNAFTAが継続するという一般的な認識である。
一方、米国の国際貿易コミッションは、経済的なインパクトの分析を提出するように要求されており、米国の上院財務委員会および米国の下院歳入委員会は公聴会を開き、最終条文に関する報告がなされるはずである。したがって、2019年の次の議会が集まる前にこれらのことが前進する可能性は低い。
USMCAが貿易促進権限の下で提言されているので、下院はそれに示される条文を改定することができない。 上院は多数決により、合意書の是非に対する投票をすることになる。
※ 記事の原文は、2018年10月5日に執筆されている。USMCAは同年11月30日に3カ国によって署名された。またトランプ大統領は、同12月1日、現行NAFTAからの離脱を議会に通知する旨を表明している。